入れ歯
入れ歯治療はどのようなときに必要となるか
何らかの理由で歯が失われたときに用いられるのが義歯治療です。義歯治療には入れ歯やブリッジ、インプラントなどいくつかの種類があり、歯が部分的になくなったのかもしくは全てなくなったのか、保険診療か自由診療かなどで患者様それぞれに合ったものが提供されます。その中で入れ歯は義歯治療の中でも最もポピュラーなものとして知られていますが、他の治療法の人気が高まるにつれてデメリットばかりが取り上げられるようになっている気がします。しかし入れ歯は依然として義歯治療として有効な手段であり、実際に多くの患者様に提供されています。さらに最近ではこれまでのデメリットを克服するような新しい素材の入れ歯の開発も進んでおり、入れ歯の人気が復活してきているともいえるのです。
歯がなくなった状態を放置することで招く弊害
何らかの理由で歯がなくなったときにその状態を放置するとどのような事態を招くのでしょうか? 空いた部分がそのままになるだけではないか、と思う人がいるかもしれませんが実際はそうではありません。口内全体に徐々に悪い影響を及ぼすことがあるのです。
1.周囲の歯が移動する
歯が失われるとその空いたスペースに隣接した歯が徐々に倒れ込んだり、移動してきたりします。また失われた歯と噛み合っていた歯が噛み合う相手を求めるように伸び始めます。
2.噛み合わせが乱れてくる
周囲の歯の移動により、それまで正しかった噛み合わせがだんだんと崩れてきます。
3.歯の状態が悪くなる
歯が失われたままでは噛みにくくなり、反対側ばかりを使うようになります。そうすると片方にだけ負担がかかってしまい、歯にダメージを与えることになるのです。また噛み合わせが乱れることで特定の歯にやはり負担がかかってしまい、その歯がむし歯や歯周病になりやすくなります。
4.見た目が悪くなる
歯並びの乱れは見た目の悪さにもつながってしまいます。また奥歯が抜けた場合にはそれまで奥歯で支えていた力が前へ前へとかかるようになります。すると前歯に負担がかかるようになり、前歯に隙間ができたり、出っ歯になったりしてしまいます。この現象はフレアーアウトと呼ばれています。さらに片方だけで噛むようになると噛んでいない方の筋肉が弱まり、皺やほうれい線が目立つようになります。
5.顎関節症が引き起こる
噛み合わせの悪さは顎の筋肉や関節に過度に負担をかけ、顎関節症を発症させることもあります。顎関節症は口や顎の周りが痛んだり、口が開きにくくなったりと日常に支障を来たすことがあります。
6.身体全体に不調が生じる
口内の異常は口や顔の周りだけに留まりません。筋肉は体中につながっているので噛み合わせが悪くなって顎の筋肉を傷めると、それが肩凝りや片頭痛を引き起こすことがあるのです。また最終的には四肢の痺れまで発症する可能性もあります。
7.義歯治療の妨げとなる
前述したように歯が抜けた状態をそのままにしていると歯が移動し始めて歯並びが乱れることがあります。その状態でようやく義歯治療に踏みきっても、義歯を入れるスペースが狭くなってしまい、そのままでは治療ができなくなることがあります。そういうときには移動した歯を削ったり、矯正治療を必要としたりと治療自体が大掛かりなものとなってしまいます。
入れ歯のメリットとデメリット
一般的には入れ歯には以下のようなメリットとデメリットがあると言われています。
入れ歯のメリット
- 保険診療(保険証の範囲内、三割負担の治療)のものなら治療費を抑えることができる
- ほとんどの場合、周囲の歯を削る必要がない
- 歯を一本失ったときから全部失ったときまであらゆる事態に対応できる
- 取り外しができるのでメンテナンスがしやすい
- 治療の期間、回数を抑えることができる
- 入れ歯に厚みを持たせることで口周りにボリュームを出し、若々しく見せることができる
- 修理がしやすい
入れ歯のデメリット
- 慣れていないと違和感を覚えやすい
- 食事中に外れることがある
- 入れ歯と歯茎との間に隙間ができ、そこに食べ物が挟まることがある
- 部分入れ歯では金具が見え、外見を損なってしまう
- 入れ歯の素材によっては食事の際に味や温度が伝わりにくくなる
- 天然歯に比べると噛み心地が劣る
その他の義歯治療の特徴
入れ歯の特徴
入れ歯は最もポピュラーな義歯治療ですが、「取り外し式」であることが最大の特徴です。そしてこの特徴は長所でもあり、短所でもあるということができます。長所としては「メンテナンスの際に手に持って隅々まで掃除ができる」ことが挙げられます。反対に短所としては取り外し式のため他の義歯治療と比べて固定力がどうしても劣ってしまい、そのため使用時に違和感を覚えることがあるということです。まだ口内にまだ歯が残っているときに用いる「部分入れ歯」ではクラスプと呼ばれるバネをその歯にかけますが、それが見た目を損なってしまうこともあります。
ブリッジの特徴
失われた歯の周囲の歯を削り、それにかぶせるようにして義歯を固定するやり方がブリッジです。固定力は強いのですがまだ健康であっても隣接する歯を削らなければならず、口内の歯全体で見ると寿命を縮めてしまいます。また隣接する歯にかぶせる部分は隙間が生まれやすく、そこに食べかすが溜まってさらなるむし歯を発症させてしまう危険性もあります。
インプラントの特徴
「天然歯のようにしっかり噛めること」や「見た目の仕上がり自然であること」がインプラントの特徴です。治療領域は歯が失われた部分だけですので周囲の歯にダメージを与えることもありません。メンテナンスも他の天然歯と同じようにブラッシングをすればいいだけなので手間は少ないということができるでしょう。ただしメンテナンスを怠るとインプラントを支える土台が弱り、抜け落ちてしまうこともあります。
他の義歯治療と比べた場合の入れ歯のメリット
歯を失った場合はそれぞれの方法の特徴を踏まえた上で、ご自身の状態に最も適したものを選んでいきます。
- 治療費を低く抑えたい人→ 入れ歯またはブリッジ
- 使用感の良さを求める人 → インプラントかブリッジ
- 要介護など自身によるメンテナンスが困難な人 → 入れ歯
- 歯を極力削りたくない人 → インプラントか入れ歯
- 外科的手術を避けたい人 → 入れ歯かブリッジ
- なるべく早く義歯を入れたい人 → 入れ歯かブリッジ
- 残っている歯を傷めたくない人 → インプラント
以上は選ぶ際の目安ですが、口内や身体全体の状態は患者様ひとりひとりごとに異なるため、実際に義歯治療を検討されている方はまず歯科医に相談することをおすすめします。
またインプラントは原則的に自由診療ですが、入れ歯とブリッジは保険診療のものと自由診療のものを選ぶことが可能です。そしてそれによって素材や性能に差が出るので、やはりどれが自分にとって最適かは歯科医と相談しながら決めていきましょう。
合う入れ歯と合わない入れ歯
ご自身の口内に合った入れ歯なら使用感も良く、快適に使用することができます。しかしもしも合っていないものなら使用していて外れてしまったり、常に違和感があったりと日常に支障を来たしてしまいます。合わない入れ歯の中には初めから合っていないものもあれば、使用していく中で徐々に合わなくなっていくものもあります。ここではその原因や解決法を見ていきます。
入れ歯が合わなくなる原因と解決法
1.まだ慣れていない
入れ歯は口の中に異物を入れることなので、まだ慣れていない人ならどうしても違和感を覚えてしまいます。話しづらかったり、食べにくかったり、吐き気がしたりという症状ですが、とくに強く痛みではないなら使用していくうちに和らいでいく場合があります。慣れるまで少し様子を見ることをおすすめしますが、我慢できなくなるような違和感があるなら歯科医院で診察を受けましょう。
2.調整不足
型取りをしたあとに入れ歯が完成すると歯科医による最終調整を行います。このときにどこか強く当たっている部分があったり、左右のかみ合わせに高低差があったりするのに、遠慮してそのことを伝えないと調整不足のまま使用することになります。気になった点はきちんと伝えるようにしましょう。
3.使用しているうちに合わなくなる
入れ歯は使い始めこそ違和感がなかったものの年月に経過により、いつしか違和感を覚えていくことがあります。これは入れ歯が使用しているうちに変形したり、口内の環境が変わったりするためです。歯科医院を訪れることで適切な調整を受けることができます。
入れ歯の種類
入れ歯には部分入れ歯と総入れ歯という種類分けの他に、保険診療と自由診療でもその種類を分けることが可能です。一般的には保険診療よりも自由診療でつくられるものの方が性能が良いと言われています。
ノンクラスプデンチャー
プラスチック素材でできいて、そのため部分入れ歯で目立っていた金属の光沢を気にする必要がありません。また弾力性もあり、金具で固定せずとも使用感が良いという特徴もあります。
金属床義歯
金属でできているため薄くても強度を出すことができ、さらに薄いために違和感を覚えにくくなっています。また金属は熱を通しやすい性質を持つため食事の温度がわかりやすいという特徴も併せ持ちます。
マグネット義歯
入れ歯の内部に磁石が埋め込まれていて、それをまだ残っている歯の中に埋めた磁石と反応させて固定します。固定力が強いのが特徴です。
入れ歯に関して気をつけること
入れ歯は取り外しができるためにメンテナンスがしやすいという特徴を持ちます。また自由診療の素材であれば使用感も良く、見た目も気にならないなど他の義歯治療と比べても遜色のない効果を期待することが可能です。どのような入れ歯が自分にとって最適なのか、またどのようにメンテナンスをしていけばいいのかなど歯科医に相談し、自分に合ったこの世に一つだけの入れ歯をつくっていきましょう。